●Global Health Watchとは何か。
Global Health Watch 1は2005年に発行されているが、Global Health Watch 2も同様に、21世紀の国際保健の状況についてもうひとつの味方を示すものである。政治・経済の文脈での重要な保健課題を取り上げ、特に健康についての貧富の格差や権力を握る側と社会の周縁に追いやられた人たちの格差に焦点を当てている。そして、不健康で健康についての不平等の決定要因に取り組む必要性を強調している。
Global Health Watch 2は、政府、国際機関や市民社会に対して、1978年のプライマリ・ヘルス・ケアについてのアルマ・アタ宣言に記された、原則、価値観、原理を再保障するよう求めます。とくにグローバリゼーション、増長する有害な新自由主義、温暖化の危機のため喫緊の課題になっている。重要なのは、国際保健に関わる機関が誠実で責任を果たさなければならないことである。
この報告書は、幅広く保健従事者や社会運動者たちに向けている。この報告書が反映する信念は、国境を越えた公衆衛生についての権利を擁護する運動は不正義、強欲、政治的無気力に対抗して集結しうる。世界中の市民社会の組織や研究機関やNGOを団結させ、民衆健康運動People’s Health Movementの世界ネットワークによって支えられている。
この文書は、Global Health Watch2の内容を概観するものであり、いくつかの鍵となるに焦点を当てる。すべての章名のリストはこの文書の末尾に掲載したが、各章は指定された文字や数値によってテキストのなかで関係づけられている。
Global Health 高い注目が覆い隠す、憂うべき現実
国際保健対する認識は、ここ数年で急速に向上した。この現象は、ある意味では、特に注目を集めた疾病の数に向けられた注意に導かれたものである。健康分野での活動者、NGO、ゲイツ財団やさまざまな有名人は、何百万人にものぼる疾病の治療を受けられない人や天寿を全うできずに死にそうな人に約束することでメディアの注目を集めてきた。保健はいまや多くの国際会議の焦点となり、G8サミットでの議題にさえなった。
世界銀行の数字によれば、保健分野での海外開発援助は1990年当時の25億ドルから2005年には140億ドルまで急増した(D1.1)。世界的な関係者も増加し、いまや40の2カ国ドナー、26の国連機関、20の世界または地域規模の財団、90以上の国際保健イニシアティブが存在している(D1.1)。
しかし、上記の資源や関係者の増加は憂うべき現実を覆い隠している。保健分野での不公平はますます拡大している。低所得国とOECD(経済協力開発機構)との平均余命はこの30年で拡大している。数億の人々が、いまだに基本的なヘルス・ケアへのアクセスや健康のための基礎的前提条件が欠けている。多くの国での不適切な公的投資ゆえに、基本的なヘルス・ケアが受益者負担であることはケアへの障壁となっており、貧困を悪化させ続けている。よりましな資源がある国でも、移民、亡命者などの社会の中で脆弱な人々は、ヘルス・ケアへのアクセスが困難である。
ごく一握りの北欧の国を除き、高所得国はいまだに、国連の開発援助のターゲットである、GNI(国民総所得)の0.7%の拠出にはるかに及びません。援助ブームと呼ばれた2005、6年は、ナイジェリアとイラクへの債務免除とインド洋津波に伴う緊急援助のため金額が多かったに過ぎない(D2)。
国際保健への拠出が増加しているものの、決定的な公的保健の優先順位は無視されてきた。毎日、4500人の子どもたちが衛生状態が悪いために死亡しており、水と衛生についてのミレニアム開発目標が実現されない可能性を示唆している。衛生状態の改善の恩恵を被っていない世界人口の4割の人々にとっての現実は、未処理の糞にまみれた悪臭漂う世界である。排泄やその他の私的な衛生行為に伴う快適さやプライバシーが保障されないため、多くの少女たちが学校を辞めざるを得ない(C5)。しかし、清潔や水や適切な衛生状態へのアクセスを改善するための開発援助の割合は、実は1990年以降低下している(C5)。アフリカ最大級の都市といわれるナイジェリアのラゴスのスラム居住者は、 ニューヨークのダウンタウンの住民の40倍も水を手に入れるために支払っている。
最近の食料価格の高騰は、農業セクターへの開発援助は縮小してきたが、そのことによって貧しい家庭、特に農村部の貧困家庭は破壊的な打撃を受けたという事実に注意をひいた。
国際保健に対する資金の増加は、往々にして、賢く効果的な利用されてきたわけではない。ドナーや国際保健機関の中での調整と一貫性が欠如しており、かつ、高給のコンサルタントや官僚が増加していることもあって、途方にくれるほどの数に関係者間の取引費用は高額化している。公的保健従事者の補強が拡充や、長期の保健システム開発戦略の支援にはあまり投資がされていない(D.13)。人的資源の戦略おいて、たとえばマラウィの6ヵ年保健セクター向け緊急人的資源プログラムでは、継続的なIMFが公的セクターの賃金の天井を貸していることとはっきりした違いがある積極的な開発はほとんどなされていない。
保健研究政策は権力や権益のゆがみにより大きな影響を受ける。医療保健の研究の複合は製薬業界の利益追求という課題や、科学面での協力や革新的調査の意欲をそぎ、マーケッティングや過剰消費に金銭を無駄に使う知的財産権の枠組みに支配される。製薬会社の研究開発の60%が公的セクターに向けられているという事実にも関わらず、その多くの資金は、支払う財力がある人の不確かな増加する利益が伴う薬剤の開発に当てられてきた。
国際保健は、ますます国際安全保障の枠組みの中で注目されている。これには、いわゆる「テロとの戦い」として描かれたものも含まれている。HIV/AIDSや世界的感染症流行の脅威、バイオセキュリティへの懸念が、高所得国のさらなる対外政策の目的や移民管理に利用され、援助がその目的のために流用されるようになった。たとえば、米国国防省は、現に米国のODAの22%を受け取っている。開発途上で、健康状態が良くないことは、貧困をなくすための緊急の理由として位置づけるよりも、封じ込め管理すべき対象としての安全保障への脅威として位置づけられる。
国際保健のガバナンス 誰に責任を果たすのか?